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- 448 : ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
01:40:57 ID:/kAqJmX+
- 次の日は日曜で僕と店長とシェフ以外は皆休み。
僕ら3人は昨日のことにほとんど触れることなく淡々と業務をこなしていた。
最初に軽く報告した程度。 実際は話す時間も無かったと言うのが正解かもしれない。
睡眠不足だったが、仕事をしながらも僕はずっと「姉さん」のことを考えていた。 昨晩は一晩入院すればいいのに、頑なに家に帰ると言い張って、
家に送り届けたのは明け方の4時ごろだったと思う。 僕は家の玄関まで送ったのだが、
おぼつかない足取りで彼女が家に入ったのを見てすごく心配になっていた。
- 450 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
01:45:59 ID:/kAqJmX+
- 店長は気が利く人だから、僕の様子を見て何度か
「今日は早く帰ったほうがいいんじゃないですか」と気づかってくれていた。
(ほんと店長には頭が下がります)
今日もほとんどの業務が終了して、一服していた時だった。
店長とシェフが一緒に一服するという。
なんか、嫌な雰囲気。。。
案の定、店長が切り出してきた。
「疲れてるところ申し訳ないんですが、浜口の件を。。。」
大体予想はしていた。話の内容はこうだ。
- 451 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
01:51:47 ID:/kAqJmX+
- また、いつ彼女が倒れるかわからない。
僕はオープンしたらこの店から離れるけど、
現場は店長とシェフが切り盛りすることになる。
そうなったときに今日のようなことになったら、
さすがに面倒を見切れないというのだ。当たり前だ。
もちろん店長は言葉を選びながらだったけど。。。
僕には一方通行かもしれないが彼女に対する愛情がある。
しかし、店長もシェフもそんなものは持ち合わせちゃいない。
- 452 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
01:54:47 ID:/kAqJmX+
- そして店長は僕に決断を迫った。
「現場は僕らが仕切っていくんです。
厳しいようですが僕らが勝手に彼女をクビにすることもできるんです。
申し訳ないと思いますが、星さんもわかっていただけますよね?
僕らから言うべきではないと思ってます」
店長の言ってることは正論だ。僕には抵抗するネタは何もない。
「わかった。僕が彼女に伝えるよ」
- 453 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
01:57:54 ID:/kAqJmX+
- その日の帰り道、僕は彼女に電話することができなかった。
店長と話す前まではものすごく彼女の声が聞きたかったのに、
今となっては顔を合わせることすら辛い。
その日は誰とも話す気になれず、
携帯の電源を切ってベットにもぐりこんだ。
- 455 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:03:25 ID:/kAqJmX+
- 目覚めの悪い朝だった。
眠れなかったわけではない。むしろいつも以上に寝れたと思う。
だけど、爽やかな1日の始まりとは程遠い感じがした。
彼女に伝えなくてはならない使命もある。
彼女の元気な笑顔が見たいという欲望もある。
複雑な気持ちが交錯して、朝のヨーグルトも口に入らない。
- 457 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:09:37 ID:/kAqJmX+
- 体と心を引きずるように仕事場に向かった。
まだ、彼女は来ていない。
店長とシェフはいつものように挨拶をしてくれた。
それが、余計プレッシャーに感じた。
平静を装い普段どおりの自分を演出して、彼女が来るのを待った。
僕らの出勤時間は10時だ。
5分前。まだ、彼女が来ない。
少し、僕は苛立ち始めていた。
- 460 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:17:25 ID:/kAqJmX+
- (遅刻かよ)そう考えた時、彼女は現れた。
ギリギリの時間だ。
僕と初めて出会ったときと同じように挨拶をして入ってきた。「ウィッス!」
元気な姿を見れて僕はほっとしたが、
その挨拶が(僕の気も知らないでって)感じに思えてしまって
「遅せぇ!もっと早く来い!」
それ言うのは僕の役目でもないのに
目も合わせないで言ってしまった。
- 461 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:22:46 ID:/kAqJmX+
- 彼女は悪びれる様子も無く「すみません」とだけ言って、皆の輪に入っていった。
オープンまであと少しだった。
もうほとんどお店は出来上がっている。
後は、何度もトレーニングを重ねたり、細かなセッティング作業をするだけだ。
しかし、本当に大変なのはここから。
オープンする期待と不安がスタッフを緊張させていた。
彼女はオープンスタッフの中ではもうすっかり古株だ。
まあ、他のスタッフとは数週間程度の違いしかないのだが。
アルバイトスタッフを仕切るのも彼女の役目だ。
- 463 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:29:02 ID:/kAqJmX+
- その日は彼女にはしっかりと働いてもらった。
途中で話すのは全体的な士気に関わると判断したんだ。
僕は何事もないように1日が終わってくれることだけを望んでいた。
日が沈みスタッフ達の業務が終わった。
皆一斉に帰る。その中に混ざっている彼女を捕まえて、
とても前向きとは思えない口調で言った。
「送るよ」
- 464 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:33:08 ID:/kAqJmX+
- 僕らはいつものファミレスに向かった。
そこは彼女の自宅とは目と鼻の先だ。
車の中では二人ともあまり会話は無かったと思う。
彼女は少し怒っている感じだった。
でも僕は自分のことで手一杯で深く考える余裕が無かった。
ファミレスに到着すると彼女の怒った原因がわかる。
- 466 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:37:19 ID:/kAqJmX+
- 「なんで今朝、皆の前であんな言い方したわけ?」
(だって、姉さんが遅く来るからだろ)
なんて心の中で言い訳をしたが、まあ、あんなことがあった次の日だ。
気遣ってあげるのが男の役目ってもんだ。
僕は黙ってしまった。伝えなきゃいけないことがあることに
少し気が動転してたかもしれないな。。。
- 468 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:41:53 ID:/kAqJmX+
- 「なんか怒ってんのか?」
彼女の言葉に僕は話題を変えようと、
姉さんの気持ちも考えずに言ってしまった。
「仕事の件なんだけど。。。」
彼女は少し眉間にしわを寄せて続きを催促するように僕の目をじっと見つめた。
僕は彼女の目を見ることができずに話を始めた。
「やっぱり君にサービス業は無理だよ。。。」
そして昨日店長と話した内容を伝えた。
- 469 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:48:39 ID:/kAqJmX+
- 彼女は僕の話なんて今まで何度も聞いたことがあるとでも言いたげに、
そっぽを向いていた。そして僕の話が終わるとこう言った。
「やっぱり病気持ちは、普通に働くことなんて無理なんだよな。。。」
多分僕が一番聞きたくない答えだった。
これを言われると僕が彼女といる意味すらなくなるような気がした。
彼女と初めて二人で食事をしたときを思い出す。
彼女が「やっと働ける」と嬉しそうに話してたことが頭の中から離れない。
- 471 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
02:54:27 ID:/kAqJmX+
- そして、更に僕の心を突き刺すような言葉が彼女から出てくる。
「ただ生きていくためだけに仕事をしなきゃいけないのかよ。
そんな命になんの価値があるっつんだよ」と。。。
彼女は会社の〆日の関係で、それから1週間後に退社した。
これで、僕は本当にお役御免になったと思ってた。
- 508 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
13:58:02 ID:/kAqJmX+
- 数週間が経って、新しいお店がオープンを迎えた。
僕は何事もなかったかのように仕事をする毎日を送っていた。
店長もお客さんの信頼を得るだけの仕事をしているし、
他のスタッフも笑顔で働いている。
シェフが作る料理は評判も良く、
色々あったが、活気溢れるいい店になったと僕は満足をしていた。
と言っても、色々あったのは僕だけなわけだがw
みっちゃんとも仲直りした。
現金なものでみっちゃんと過す時間はそれなりに楽しかった。
彼女とはもともと月に2、3回くらいしか会わない付き合いだったので、
2ヶ月位の僕らの空白を埋めるのには一度の仲直りで充分だった。
何もかも3ヶ月前の生活に戻っていた。
僕のこころの中を除いては。。。
- 509 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:02:49 ID:/kAqJmX+
- お店がオープンして初めて迎えた週末、
僕は何週間かぶの休みを取ってみっちゃんと鎌倉に行った。
ここは僕が高校生のころから好きだった場所だ。
みっちゃんと初めてのデートもここだった。
僕のデートコースはこうだ。
- 510 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:11:37 ID:/kAqJmX+
- 鶴岡八幡宮の脇にある駐車場に車を止めて、
まずは鶴岡八幡宮を参拝する。
それから小町通りをブラブラしながら、いつも行く
左に一本入ったところにある洋食屋でカレーを食べる。
彼女はハヤシ。ちっちゃいお店だけど、手作り感のある落ち着くお店だ。
また、しばらく小町通りをブラブラして、漬物やせんべいの試食をつまむ。
1〜2時間位してから車に戻って、由比ガ浜に向かう。
途中のマックでドリンクだけ買って、浜辺を散歩する。
ただ、だらだらと話をするだけだ。
夕日が涼む時間が近づくとそこから稲村ガ崎に移動する。
ここから見る夕日は絶景だ。
カメラを持った人たちがいつもこの夕日が沈むのを待ち構えてる。
僕らは、腰まである塀によじ登って腰を下ろし
見事なまでにオレンジ色に染まった夕日が海の向こうに沈んで行くのをただ眺める。
ここでは誰も話をしている人はいない。
潮の音だけが聞こえてきて言葉を発することが無駄に思えるからだ。
夕日が沈むと丁度お腹が減る頃だ。
そこからは食べたいものによって場所を変える。
と、言った具合だ。
- 513 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:15:48 ID:/kAqJmX+
- この日も、いつもどおりのコースを回って、
稲村ガ崎の前にあるシーフードレストランで食事をした。
帰りの車の中では今日の事を二人で楽しく話ししていたはずだった。
いつもどおり振舞ってるつもりだった。。。
- 514 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:19:41 ID:/kAqJmX+
- 第三京浜を走ってる時だった。突然僕の携帯が鳴った。
「もしもし?」
イヤホンなので、誰からの着信かはわからない。
「ごぶさたーーー!!!」
自分の名前を名乗らず、
このテンションの奴は僕の知ってる奴の仲では1人しかいない。
「姉さん」だ!
- 515 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:25:11 ID:/kAqJmX+
- (なんでこんなときに。。。)
彼女は僕がクビにしたレストランに食事に来ているという。
「せっかく来たのにいないじゃん!」
(いるわけないだろ。俺はお店がオープンするまでの仕事なんだから。。。)
彼女のテンションは「姉さん」らしいテンションだった。
少し懐かしくて、少し嬉しくなった。
僕はすっかり「姉さん」は怒っているものと思っていたが、
何も無かったかのような彼女のテンションにすんなり溶け込むことができた。
隣に彼女がいたけど、僕はやましいことはしていないと強気に話をしていたものの、
「姉さん」に心を奪われていたことをみっちゃんに悟られるんじゃないかとドキドキしていた。
- 516 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:30:15 ID:/kAqJmX+
- 「今何してんの?」
僕はわざとみっちゃんに聞こえるように言ったと思う。
「デートしてるとこ」
僕の鼓動がまた少し激しくなった。
「あっそ、じゃあまた、今度にするわ」
すごくそっけなかった感じがして、僕はまた、怒らせてしまうと
「いや、どうした?」
と話を引き伸ばしてしまった。
- 518 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:36:04 ID:/kAqJmX+
- 「悪いんだけど来週、病院に付き合ってもらえないかな?」
彼女は次回の検診で目の検査があって、
その検査のあとは数時間視力が定まらないとか、そんな感じのことを言っていた。
合併症で網膜症があるのは以前このスレでも
誰かが言ってくれてたなw
「姉さん」は前回初めて目の検査をしたときに、
帰りの交通機関がすごく不自由したと言っていた。
車の運転を頼める友達にもその日は無理だといわれたらしい。
だから、僕に付き添ってもらいたいというのだ。
まあ、アッシーって奴だなw
- 519 :星 ◆HPyFqJcNpk :2005/11/06(日)
14:43:08 ID:/kAqJmX+
- 少し答えるのに躊躇して、少し返事は濁した。
みっちゃんには申し訳ないという想いと
「姉さん」に会いたいという想い。
みっちゃんは「姉さん」の存在を知っている。
「姉さん」が倒れたときに、電話してきてたから。
だから問題ないとも思っていた。
みっちゃんには僕が病院に付き添うことを説明した。
みっちゃんは僕の目をしっかりと見て言った。
「頼られてるね。行ってきてあげなよ」
その日がみっちゃんとの最後のデートとなった。
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